日本の小学生の通学かばんといえば、ランドセル。ランドセルが初めて作られたのは明治に入ってからです。それがどのように通学かばんの定番となったのでしょうか?この記事では、ランドセルの歴史をまとめました。
最近では、色や素材が多様化していますが、それでも基本的な仕様は明治時代から変わっていないランドセル。長い間人々に愛されてきたランドセルの歴史を紐解いてみましょう。
明治時代に生まれたランドセル
1869年(明治2年)5月21日、日本で最初の近代小学校である上京第二十七番組小学校と下京第十四番組小学校が、京都で開校しました。しかし、この時はまだランドセルはありませんでした。そもそも持参する教材がほとんどなく、通学かばんは必要なかったのかもしれません。
同時期の1877年(明治10年)、東京に華族のための小学校である学習院初等科が開校しました。通学するのは当時の華族の子弟ですから、自分で荷物を持たず、馬車で通学したり、学用品を持った召使が付き添っていたりしていました。しかし、学校では皆平等であるべきという理念のもと、馬車通学や召使に学用品を持たせることが禁止されたのです。このとき採用されたのが、軍隊で使われていた「背嚢(はいのう)」です。背中に背負ってラクに持ち運べることから採用されたのでしょう。
1887年(明治20年)、当時の皇太子であった大正天皇が学習院初等科に入学するにあたり、伊藤博文が、この「背嚢」をしっかりした箱形のかばんにアレンジしたものを献上しました。これがランドセルの始まりといわれています。
このかばんは、1890年(明治23年)に素材が黒革となり、1897年(明治30年)には寸法や仕様が統一され、学習院の通学かばんとして利用されるようになりました。これが現在のランドセルの基本形で、今もほとんど変わらない姿で愛用されているのです。
ランドセルの語源
ランドセルの原型となった軍隊用の背嚢は、幕末、西洋式軍隊システム導入の際から使われるようになったものでした。当時このかばんは、オランダ語で「ランセル(ransel)」と呼ばれており、ランドセルはその語形が変化したものと考えられています。つまり、ランドセルの語源はオランダ語の「ランセル」だったのです。
ちなみに、マレー語ではリュックサックのことを「ransel」といいます。この当時はアジア圏内でオランダの影響が強かったことが感じとれますね。
一方、当時の背嚢は今の言葉で言うとリュックサックですが、リュックサックをオランダ語でいうと「rugzak」になります。面白いですね。
昭和はランドセルが広く普及した時代
このようにして本革のランドセルは誕生しましたが、当時は高級品だったため、庶民には手の届かないものでした。そのため、庶民の通学かばんとしては、布製のショルダーバッグや風呂敷が主流の時代が続きます。しかし戦後、両手がフリーになるランドセルが庶民の間でもだんだんと利用されるようになっていきます。
ただし素材は皮革に限らなかったようで、1946年(昭和21年)ごろにはなんと、アルミ製のランドセルが販売されていたことがわかっています。これは三重県津市の文具商が販売していたもので、現在は三重県総合博物館にも展示されおり、実物を見ることもできるのだそうです。
このアルミ製のランドセルはグリーンに塗られ、幅3cmの厚手平織りで黄色い布製肩紐がついており、なかなか素敵なデザインだったことが伺えます。
その後、経済が発展するとともにランドセルは広く普及し始めます。その一因に人工皮革の実用化が挙げられます。人工皮革は、本革に比べると軽量で安く、濡れても品質が代わりにくいことから、ランドセルにうってつけの素材としてもてはやされるようになります。現代ではランドセルの材料として7割以上が人工皮革製であると言われています。
平成から令和はランドセルも個性的に進化
黒革で作られていたランドセルが庶民のものになると、女の子は赤のランドセル、男の子は黒のランドセルを背負うことが一般的になりました。
ところが個性を大切にする時代に突入すると、各メーカーがカラフルなランドセルも販売するようになり、好みに応じて選べるようになっていきます。
2001年(平成13年)、某大手小売りチェーンが24色のシリーズを展開したのを皮切りにオーダーメイドで好きな色やデザインを選べるランドセルなど、各メーカーが自分らしさを出せるランドセルを次々と販売しています。
また、“革のダイヤモンド”と呼ばれる高級素材コードバンを使ったランドセルや、有名デザイナーとコラボ製作のランドセルなど、ランドセルの高級・高額化もすすんでいます。
基本は同じ130年変わらないランドセル
ランドセルの歴史は思っているよりかなり短いことがわかりました。戦前までランドセルを持っていたのは本当に一部の人だけだったのです。戦後経済が良好になった昭和30年(1955年)頃から一般庶民の子弟も利用するようになりました。
今ではさまざまな色や素材、デザインのランドセルを購入できます。男の子が赤いランドセルを持ったり、反対に女の子が黒いランドセルを持ったり、自分の好みを反映するようになりました。
しかし、基本的なデザインは130年間ほぼ変わっていません。 良いものは時代が変わっても変わらないということがよくわかりますね。